人事業務中最も難しい施策の一つPMIのベストプラクティス

私がこれまでの人事業務経験の中で、最も時間をかけて注力して来た施策は、ズバリ6回に亘って経験したPMI(Post Merger Integration)施策です。下記M&Aの件数推移グラフに2つの山がみられるように、2005年~2008年にかけて4社を合併、直近では別の法人で2024年4月に1社を合併しそれぞれPMIプロジェクトの人事部門リーダーとして携わっています。今回は、近年増加傾向のM&Aに伴い、成功の鍵となるPMIについてその重要性をまとめておきたいと思います。

2000年中ごろに続いて、近年、M&Aが増加しています。 2023年中小企業白書によれば、「(株)レコフデータの調べによると、M&Aの件数は近年増加傾向で推移しており、2022 年には過去最多の4,304件となった。足下の2023年は前年に比べ減少したが、4,015件と高水準となっている。これらはあくまでも公表されている件数であるが、M&Aについては未公表のものも一定数存在することを考慮すると、我が国におけるM&Aは更に活発化していることが推察される。」としています。


PMIの目的と3つの統合の重要性

PMIの主な目的は、M&Aによって得られるシナジー効果を最大化し、リスクを最小限に抑えることです。具体的な統合施策には以下の3つの統合が重要になります。

  1. 業務の統合
    組織編制や業務プロセスの共通化、就業規則、人事評価制度等の規則制度の整備、社内システムの統合など、業務がスムーズに進むようにします。
  2. 経営の統合
    経営理念やビジョンの統一、役員人事、予算配分などを見直し、統合後の経営判断を円滑に行える体制を整えます。
  3. 従業員の意識・信頼関係の統合
    両社の従業員が互いを理解し合い、協力して業務を進めるための文化的統合を図ります

これらの統合業務の現場リーダーを担うのは主に人事部門となります。これまで異なる価値観で、全く別々の道を歩んできた会社が一つの会社になるとき、それぞれの従業員にとっては様々な思いがあります。特に吸収合併の場合は吸収される側の従業員の多くは、「リストラされるのではないか」「降格させられるのではないか」「将来の昇進・昇格が閉ざされるのでないか」等々と気が気ではなく仕事に邁進できない従業員が多くいます。一方、吸収する側の従業員は「上手く行っているのに何故合併するの」「組織が変わって人事異動があるのかな」「どんな人たちと同僚になるんだろう上手くやっていけるかな」等々、やはりそれなりの不安を抱き落ち着きません。

具体的な施策

  1. 統合戦略の明確な説明
    買収の目的が新規市場への参入なのか、技術の獲得なのか、コスト削減なのかを経営陣だけでなく、全従業員に明確に説明し、統合後の目標を全員で共有します。
  2. 文化評価の実施
    統合前に両社の文化を評価し、価値観や慣行、行動様式の違いを明確にします。これにより、潜在的な文化的対立を事前に把握し、対策を講じることができます。
  3. 共通の価値観の策定
    両社の強みを活かしつつ、新たな企業文化を形成するための共通の価値観(企業理念)や行動規範を策定します。これにより、従業員が共感しやすい基盤を作ります。
  4. コミュニケーション戦略の強化
    統合プロセスに関する透明性のあるコミュニケーションを維持し、従業員が統合の進捗や重要な決定事項を理解できるようにします。定期的な情報共有やオープンな意見交換の場を設けることが重要です。
  5. 文化統合のためのワークショップや研修
    従業員が新しい文化を理解し、受け入れるためのワークショップや研修を実施します。これにより、異なる文化を持つ従業員同士の相互理解を深めることができます。
  6. 管理者(リーダーシップ)の役割
    統合プロセスにおいて、リーダーシップが重要な役割を果たします。経営陣は新しい文化の模範を示し、従業員に対して新しい価値観を浸透させるための行動を取る必要があります。
  7. フィードバックの収集と改善
    統合後も定期的に従業員からのフィードバックを収集し、文化統合の進捗を評価します。必要に応じて施策を見直し、改善を図ることが重要です。

PMIの推進体制

PMIには、プロジェクトチームが不可欠です。このチームは、買収後の統合プロセス全体を監督し、戦略の実行を指揮します。特に異なる企業文化の調和を図るために、PMIプロジェクトチームのメンバーは双方の企業から選ばれるべきです。

【PMIプロジェクトチームの編成と役割】

  1. 効果的なプロジェクトチームの構成要素
    買収企業と被買収企業の両方からリーダーを選び、文化的な橋渡し役を担います。
  2. 多様性の確保
    各リーダーの役割と責任を明確にし、統合プロセス全体がスムーズに進行するようにします。
  3. 明確な責任分担
    リーダーは統合の進行状況を透明にし、従業員やステークホルダーに定期的に情報を共有します。
  4. 透明性のあるコミュニケーションを保つ
    統合期間中、透明性のあるコミュニケーションが不可欠です。従業員は買収や統合が自分たちにどのように影響するかを知りたがっており、情報が不足していると不安や疑念が生まれ、モチベーションの低下や生産性の悪化につながります。
  5. 組織文化の統合を促進する

【効果的なコミュニケーション戦略】

  • メールや社内会議、Q&Aセッションなどを通じて、統合の進行状況や重要な決定事項を共有します。
  • 定期的な情報共有:従業員が意見や懸念を表明できるようなオープンなコミュニケーションチャンネルを設けます。
  • 双方向のコミュニケーションを促進:統合のビジョン、目標とその意義を従業員全員が理解できるようにし、買収後の新しい方向性に対する共感を促します。

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