様々な人事評価・賃金制度がありますが、私が実際に導入して失敗した数社の人事評価・賃金制度導入事例を紹介します。
成果主義の人事評価・賃金制度
1993年に日本の大企業として初めて「成果主義」の人事評価・賃金制度を導入した、大手コンピュータ会社であるF社。私は、少なからず人事担当としてその導入に関わりました。まずは、管理職にMBO(目標管理制度)を導入、追って、管理職に年俸制を導入、専門職のエンジニアなどの主任クラスには裁量労働制を導入しました。労働時間による管理ではなく、成果に応じて給料を支払うシステムを導入したのです。数年後には中堅社員までMBOの適用を拡大し、最終的には「成果評価」に一本化しました。
成果主義の中核は「目標管理制度」、目標があることにより社員のモチベーションもアップし、働いて実績を上げただけ報われる、働き方も裁量労働制のおかげで自由度が極めて高い。当時マスコミも「給料にあまり差をつけない横並びの企業がほとんどのなか、がんばればがんばった分給料が上がる、給料格差がさらに社員のやる気を引き出すでしょう。F社はさらに業績を伸ばすだろう。」などと概ね肯定的に報道しました。
1990年代は、コンピュータ機器などのハードウェア、半導体ビジネスの伸びが頭打ちとなりましたが、F社はFENICSという付加価値情報通信インフラをいち早く整備し、顧客のニーズに合わせたトータルなシステムを売るというトータルソリューションビジネスでさらに業績を伸ばしたのです。これらF社のソリューションビジネスの強化と「成果主義」の導入は、時期的に重なっており、ソリューションビジネスと成果主義の両輪によりF社の盤石な成長基盤を築き上げたかに見えたのです。
しかし、2000年に入ると間もなく大きく失速しました。株価が5,000円台だったピークから2000年7月からは下落を続け、2年後には10分の1を切りました。ソリューションビジネスにおいて大口顧客に対して立て続けにトラブルを起こし、ブランド力も著しく失墜しました。高いモチベーションを以て目標達成に向けて邁進するはずの社員がかえって以前よりも低いパフォーマンスしか見せない、労働生産性が上がるどころか、人件費が2割以上アップしたのです。そして社員の離職率も急増していきました。
急激な業績低迷の原因は、複合的ではあるものの最大の原因は「成果主義」の導入にあったものと私は思っています。成果主義自体が悪いとはいいきれませんが、結局、成果主義といっても最終的には、人件費の原資が限られており限られた原資のなかで社員に分配することになっていたのです。いわゆる相対評価にならざるをえなかったのです。半期ごとの評価において、全被評価者を100%とし評価分布は、SA評価が10%、Aが20%、Bが50%、Cが15~20%、Eがほぼゼロという相対評価です。評価委員会で無理やりこの比率に最終調整をせざるをえません。これにより社員の不満が噴出し、優秀な社員が離職する状況となったと見ています。 一方、平均的なパフォーマンスの社員のなかには、制度の脆弱性を社員が突いて、本来、背伸びをしてようやく届くか届かないかの高い目標を設定すべきところを、そこそこのがんばりで手の届きそうな目標を設定しそこそこがんばる、また、本来、1~2年かけて達成するような大口の目標を設定すべきところ、数ヶ月スパンの短期間で達成できそうな目標を設定するなどが横行したのです。さらには、チームで分担して達成すべきところを一匹狼的に見込み顧客をポケットへ隠しもち評価対象期間の終盤でクロージングするなどが行われていたのです。
人件費を青天井に引き上げることは、余程企業全体の業績が中長期に亘り成長が見込めないとできないことから、相対評価にならざるをえません。また、目標の難易度についても本人が立てた目標を一次・二次評価者が時間をかけて精査し、本人とすり合わせを行い、最終的に設定することの徹底がいかに難しいかです。実際、現場では常に多忙を理由としてほとんどこの作業が適切に行われていなかったのです。成果主義を絵に描いた餅にすることなく、期待通りに運用することは企業の規模が大きいほど困難といわざるをえません。万能な人事評価制度はないと思っていますが、以降、私はこれを教訓としてMBOとコンピテンシー評価+加点評価を組み合わせた人事評価制度及び会社・個人業績と連動した賃金制度を標ぼうするようになったのです。
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