人事評価・賃金制度の失敗事例②

様々な人事評価・賃金制度がありますが、私が実際に導入して失敗した数社の人事評価・賃金制度導入事例を紹介します。

360度評価

これまで私が携わってきた従業員向け満足度調査結果の総合満足度の問いに対して、「満足していない」と回答した理由として上位を占めていたのが、「人事評価に不満がある」という理由でした。自分はもっと評価されて然るべきというものです。また、この関連質問として、「人事制度で改善して欲しいことは?」という問いに対する回答で、「360度評価を導入すべき」との声が複数上がることがありました。もう、かれこれ20年前の話しになりますが、「360度評価」が人気を博し多くの企業で導入が進んだ時期です。

「360度評価」とは、多面評価ともいわれ、社員を評価する際に、上司だけでなく、部下や同僚、業務上関係の深い他部門の社員など複数の視点から評価を行う評価手法です。これにより、以下のようなメリットが挙げられます。

  • より公平で客観的な評価が可能となる
  • 多角的なフィードバックを通じて、社員の成長を促進する
  • 納得感の向上

当時、人事部長であった私は、「公平性」「成長」「納得感」という3つのキーワードにとても惹かれ、是非試験的に導入してみたいと思っていたところ、「公平君」(注)というVisual BASICで開発された半パッケージソフトを見つけ、購入し実際に試験導入に踏み切ったのです。

(注)開発会社であるエトナ株式会社によると2015.10.31「公平クン」新規の有償ご使用契約は終了したとのことです。

早速導入、評価を実施しました。プロセスは下記のとおりでした。

1.初期データの入力
2.考課項目の設定
3.個別に評価入力
4.データ統合と集計
5.評価シートの作成
6.給与・賞与への反映

社員数は100人強の中小企業でした。半期に1回、年2回の360度評価を試験実施して分かったことは、しっかりとした評価マニュアルを作成し、管理職、一般社員全員を対象に説明会を開き、事前に評価の仕組みと360度評価の意義を全社員に徹底させ、現場で正しく運用できない限りは失敗するということです。360度評価の試行は一年で終了し本格導入しないことになったのです。

現実は何が起こったかというと、上司と部下の癒着や忖度。評価者名は匿名としますが、悪い評価を付けた者の犯人捜しをはじめ、評価者と被評価者が結託しお互いに有利な評価を付け合う、また、癒着や結託までいかなくても部下が上司を忖度するなどの「公平性」「客観性」とはほど遠い事象が起こっていることが判明したのです。また、あいつは優秀だと思うけど威張っていけ好かないので、感情的に低い評価を付けたり、そこまでいかなくても、同僚であっても業務上余り関わりのない同僚は良くわからないので標準レベルの評価にしておく等の問題点への対応が極めて難しい。一方、制度面では、一人当たりできるだけ多くの評価者を設定することにより多角的な評価・フィードバックが可能という趣旨であるため、一人当たりの最小考課者数を例えば直属上司、部下(後輩)、同僚(2名)、他部門の業務関係者の5名に決めた場合、規模が小さな会社ほど、人によってはこの5名を確保できないという事象が起きます。

以上の経験からアドバイスとして、360度評価を成功させるためには以下のことに十分留意する必要があということです。

  • 最小評価者数を満たし多面評価が実現可能かの事前検証が必要なこと
  • 被評価者の育成的観点からの前向きなフィードバックが期待できる企業風土か
  • 評価に関する事前教育を徹底し理解を得ること

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